第4章 6月
「…あ、の…夜久さん」
アップを終え、試合形式の練習に入ったところで声を掛けてきたのは鈴ちゃんだった。
そういえば今日は朝から姿を見ていなかった。
「えっ、何どうしたの?」
そのまま鈴ちゃんは俺のジャージの裾を引っ張って、雨の降り続く体育館の外に連れ出した。
目的の場所はまだ先らしく、俺たちは小さな傘に肩を寄せ合い誰もいない休日の学校を歩いた。
いい雰囲気と言えなくもないが、残念ながらこの日寝違えていた俺はその間ずっと斜め左を向いていた。
「…部室?」
いつもはこの部室にもシューズの音やボールの弾む音が体育館から聞こえてくるが、今日はザーザーと屋根を叩く雨音だけが鳴り続けていた。
促されるままに靴を脱いでフローリングに上がる。
「…あ、…あの……えっと、」
鈴ちゃんはもごもごと口ごもるばかりで、要領を得ない。
今のところ彼女が何を考えているのか検討も付かないので、ここは彼女の言葉を待つしか無い。
「大丈夫。落ち着いて言ってみな」
コクリ、と頷く仕草は人形のようで愛らしい。
等と考えていた夜久は次の言葉に絶句した。
「…ズボン……脱いで、下さい」