第3章 5月
「山本のリアクションを見る限り、結構な美人だったんだろ?もったいねえ事するなァ」
思っても無い事を言ってまた黒尾はゲハゲハ笑う。
笑いながらのけぞる度、彼の体躯には合わない小さな椅子がギシギシ鳴る。
リエーフは制服のブレザーを脱ぎながら答える。
「いやぁ、だって俺、鈴のこと好きですし」
突然投下された爆弾発言にガタン、と大きな音を立てて黒尾は椅子から転がり落ちる。
他の者もギョッとした顔で、口をあんぐり開けて、ニヤニヤ笑って、一同にリエーフに注目した。
相手が変わり再び胸ぐらを掴まれる。
「リエーフ……お前、そんなに俺のレシーブ練を受けてぇのか。関心するぜ」
「ちょッ黒尾さん、シスコンも大概にして下さいって!」
慌てて止めに入ろうとした海が吹き出す。
今まで誰も口にしてこなかった"シスコン"という社会的殺傷力をもつ単語を、この1年生は本人に向かって言い放ったのだ。
「っ!、俺と鈴は…違げぇよ!」
何が違うんだか、リエーフは呆れた。
違うというのは実際、義兄妹だからセーフという意を孕んでいるのだが、その場で知っていたのは本人、海、研磨の3人だけだった。
黒尾が怯んで、手の力が弱まる。
リエーフがハッと何かを思いつき、神妙な面持ちで口元を押さえる。
「まさか…知らないんですか?
兄妹じゃ結婚できないって法律で決まっている事を…」
ボス、っと鳩尾に軽く一発。
「うグッ!?」
「ンなこと知ってるわ」
うずくまる1年をゴミを見る様な目で見下す3年。
傍から見ると絵に描いたようなパワハラの事例だった。
「とにかくオマエと鈴が並んでると誘拐犯にしか見えねえんだよ、この糞ロリコン!」
自分がまだ中学に見えることを気にしている鈴には聞かせられない言葉だった。
「ロリコンって、俺ら同い年っスから!」
「巨乳断って鈴に行くなんてロリコンの証拠だろ」
間接的ではあるが鈴が貧乳であると、その兄が声を大にして言ったのだ。
誰もが薄々感じていたが、あえて考えない様にしていたのに。