第3章 5月
リエーフが近過ぎて落ち着かない。
何とか腕の中から抜け出そうと、もぞもぞ足掻く。
「だーめ。答え聞くまで逃さないから」
子供を宥める様に優しく、でも意地悪な声。私の抵抗も虚しく、リエーフは離してくれそうにない。
それどころか頭に顎を乗せられ「いい匂い」なんて言ってる始末で…。
「ね、付き合おうよ」
今までにもクラスで誰と誰が付き合ってるとかいう話が聞こえてくることはあった。
でもそれはまともに友だちもいない私にとって、縁がないどころか想像もつかない世界だった。
「…付き合う、って……何、するの」
「そりゃ一緒に帰るでしょー、休みの日に遊んだり、それから…」
リエーフは途中で言い淀む。
「…あー、まあその先は、追々説明するとして。…とにかく俺は鈴が好きだし、毎日一緒にいたい」
鈴は?と聞かれても…
(鉄朗とも研磨とも一緒に帰るし、休みも遊んでくれるけど付き合ってないよ?)
謎は深まるばかり。
「…今も、毎日…会ってる」
リエーフだって学校に行けば同じクラスだし、休みも遊んでるかは別として部活は毎週ある。
「そういうのじゃなくてえええ」
ブオンブオンと後ろから抱きしめられたまま、左右に揺さぶられる。
何だかんだで心臓のドキドキも落ち着いてきたし、いい加減離して欲しい。
好きとか、そういうの…よく分からないし。
「…リエーフと、付き合ったら…首、痛そう」
ずっと上向いてないといけないだろうから。
するとリエーフが急に静かになった。
「リエーフ…?」
「…今のって、もしかして、俺…フラれた?」
何と言っても良いものか。
私は首を傾げながら、曖昧に頷いた。