第3章 5月
なんだか昨日も見たような光景。
またリエーフが大の字で床に寝転んでいる。
「…俺、女の子にフラレたの初めてなんだけど」
昨日と違うのは、今日は仰向けじゃなくてうつ伏せな所か。
「しかもその理由が首痛そうって何なの?俺悪いの?縮めばいいの?」
ゴロンゴロンとのたうち回る大男は少し怖かった。
どうするべきか分からず、私はリエーフと少し距離を取って座った。
「…押せばいけると思ったんだけどなー」
転がるのを止めたと思ったら、次は唸り声を上げて足をバタバタさせる。
「…なぜ?」
どこにそんな根拠があったのか。
ぐるりとリエーフは寝そべったまま私の方に顔を向ける。
「だってあんな怖い兄ちゃんが目を光らせてるし、鈴男に言い寄られたことなんて無いでしょ」
(……鉄朗、が…?)
確かにバレー部以外の人から話し掛けられる事は少ないが、それは私の人見知りのせいで鉄朗は関係ない様に思えた。
「鈴 真面目そうだし、人の頼みとか断われなさそうだしー」
基本はそうだけど。
好きじゃないのに告白を受けるとか、無責任なことはしたくない、と何となく思う。
「…俺、部活見学の日から好きだった。俺の練習に付き合ってくれるし、優しいし、一生懸命だし、今はもっと好きになった」
離れて座る私に、まだ寝そべったままのリエーフはぐい、と手を伸ばす。
およそ20cm。その手は僅かに届かない。
「鈴の事やっぱ好きだ。全然諦めらんねえ」
リエーフは立ち上がり、私の後ろに移動してしゃがみ込む。
背中にトン、とその頭が寄りかかる。
「ねぇ、まだ好きでいていい?」
「…リエーフ、あの…」
私は「友だちに、なって」と、そう告げた。
「俺、友だちですら無かったのかよおおお!」
リエーフは崩れ落ち、また地を転がる。
(仲良くしてくれたけど、友だちって言ってくれたこと無かったし…)
暫く様子をみると、リエーフはスッと起き上がり、私に右手を差し出した。
よく分からず、その手を見ていた所、痺れを切らしたリエーフは「握手だよ、あーくーしゅ」っと言って私の右手を捕まえてブンブンと上下に振った。
「まずは友だちからヨロシク、なんてね」
(…友だち、から?)
私は首を傾げ、そしてその後深く頷いた。