第3章 5月
「リエーフ、今の…良い、感じ」
そう伝えると「え、マジ?」と嬉しそうに駆け寄って来て、何故か高い高いされてそのままクルクル回りだす。
190センチにやられるとホント高い。
リエーフはぐったりした私を降ろすと、すぐにさっきのフォームを再現して得意気に「どう?どう?」と聞いてくる。
そういうのは鉄朗とか研磨に見てもらった方が良いとは思うけど、私は一つだけ気づいたことを進言する。
「…もっと…手の、力抜いて」
今のリエーフは腕の力だけで強いスパイクを打とうとしているみたいで。
それだと肘とか肩に負担が掛かるし、ボールに体重が乗らない。
「力抜いちゃったら速い球打てなくない…?」
ある意味もっともな事を言って、頭に疑問符を浮かべるリエーフに、私は自分の身体を動かし説明する。
腕を身体と一直線に伸ばして、そのまま上体を反らし胸を張る。
引き絞った弓を放つように…身体の反りを戻す反動を使い、手をぶんと振り下ろしてみせる。
リエーフは顎に手を添えて「なるほどー」と呟く。
「何となくわかったけど…実は鈴って運動オンチ?」
一言多い。
わかってもらえて嬉しいけれども…心に刺さることをニカッと笑いながら言ってくれる。
「動きがカタイと言うか、…うーん、なんか鈴がやると可愛いよね」
(…それ私の動きが変ってこと?)
少しだけムッとした私は、リエーフなんか放っといてボールを拾おうと反対のコートへボールの籠を転がした。
しゃがんで2つのボールを拾い、立ち上がった瞬間。
不意に後ろから抱き締められ、拾ったボールは私の手を滑り落ちる。
無言の体育館にデン、デンとボールの転がる音が響いた。
「鈴、俺と付き合ってよ」
あまりの驚きに時と心臓が同時に止まったかと思えた。
どこに、とかじゃ無いのは何となくわかる。
それでも聞き返さずにはいられない。
「…な、なっ、なにを…」
私の頭は大混乱なのに、追い打ちを掛けるように耳元でいつになく甘いリエーフの声がした。
「俺の彼女になってって事だよ」