第3章 5月
―リエーフと特訓 その2―
キュッキュッキュッ。
軽やかな助走から、踏み込み跳び上がる。
…バシン、
ボールの芯を完全に捉えた良い音。
ドン。
誰もいないコートに突き刺さるスパイク。ビリビリと僅かな振動が足から伝わる。
私はリエーフに鉄朗からのアドバイスを二つだけ伝えた。
ボールをよく見る事、狙いを定めて打つ事。
後はひたすらに練習だった。
キュッキュッキュッ。
…バシン、ドン。
『まず最初はボールをよく見て、手のイイトコロで当てられるようにならなきゃ話にならねえ』
キュッキュッキュッ。
…バシン、ドン。
『その時にクロスに打つかストレートに打つかぐらいは練習の時から意識した方がいい』
キュッキュッキュッ。
…バシン、ドン。
「…鈴、もう一回」
私は頷いて、トスの準備に入る。
相変わらずリエーフの集中力は凄い。
次のボールを上げたら休憩を入れてもらおう、なんて考えながら。
グッと膝を使い、柔らかい山なりのトスを上げ…
「あっ…」
キュッキュッキュッ。
しまった、トスが高い…
………ッ、バシン、ドン。
リエーフはタイミングのズレたトスに無理矢理合わせようと、空中でタメを作った。
それはまだ教えて無い、最後のコツだった。
『…んで、トスに合わせられるようになったら最後はタメだ。ジャンプした時、身体全体を後ろに反らせて、グッと戻す。腕は無理な力を入れず、振り抜くだけでいい』
(…直感?才能?)