第3章 5月
「何してんの〜」
そんな事を考えていると、突然オレンジの髪が眩しい、地元の高校生?が駆け寄ってきた。
田舎では知らない人がいたら話し掛けるのが普通なのか、と俺は衝撃を受ける。東京だったら事案発生だ。
「えーっと、あー…迷子…?」
誤魔化しても仕方が無いのでありのままを話す。
「えっ、他所から来たの?」
「…うん」
あ、俺のせいで会話が終った…
今更気づいてそわそわしてみても人見知りの俺にはどうすることもできず、ピロンピロンと携帯ゲームの音だけがせわしなく鳴り続ける。
「それ面白い?」
オレンジ頭はしゃがみ込んでグッと画面を覗き込む。
この続かない会話を強引に続けようとする図々しさは小学生の時のクロに匹敵するかも。
「えっ、うーん…別に…コレは…」
ピロリーン
「ただの暇潰しだし…」
ポップにデフォルメされた動物達が動き回るパズルは、ゲームが下手な鈴と唯一いっしょにできるゲームだった。
「バレーやんの!?そのシューズ!バレーの!?」
ゲームに興味を示したかと思えば、俺の鞄から飛び出たシューズを見付けた彼はいきなり立ち上がる。
「あ…うん」
「おれもバレー部!おれ日向翔陽」
俺の返事なんて聞いてないんじゃないかって勢いで嬉しそうな声が返ってくる。今頃気づいたけど、翔陽と名乗る彼のTシャツには丁寧にもKARASUNO HIGH SCHOOLって書いてあった。
きっと監督がゴミ捨て場とかなんとか言ってた、あの烏野のことだ。
(…ヒナタ…ショウヨウ…)
声に出さず、頭で繰り返す。
そしてこの流れは俺も名乗らなきゃいけない感じだよね。
「…孤爪…」
トモダチ作るってこんな感じなのか。
なんて冷静にそんなこと考えるけど、なんだか少しだけワクワクした。
「孤爪…研磨…」