第3章 5月
―孤爪研磨と日向翔陽―
迷った。それも宮城県のド田舎で。
日差しを遮る建物は何も無く、ここは本当に東北なのかと言いたくなるくらい容赦無く暑い。夏はまだ先じゃん何頑張ってんの、と実際口には出さないが太陽にケチをつけたい。
こうも暑いと自分で動き回って体力を消耗するより、クロ辺りに見つけてもらう方が効率が良さそう。
ふぅと溜め息をつきながらフェンスの隅に腰掛ける。暇潰しにとゲームを起動しながら、頭の中は全く別の事を考えていた。
それは先週の試合の事だった。
普段あまり笑わない鈴が、その日は俺達の試合に一喜一憂していた。
音駒のスパイクが決まると嬉しそうに両手で小さくガッツポーズして、相手の得点が続くと心配そうにオロオロとしていた。
クロはスパイクを決める度ベンチ横に立つ鈴をさり気なく見る。
誰かとハイタッチしながら、ローテで回りながら。
大袈裟にコート外の鈴に向かってアピールしてた虎と犬岡のせいで、クロの動きは不自然に目立つ程では無かった。
けど俺は思った。
ああ、クロは鈴の為にバレーをしているんだと。