第3章 5月
行楽日和、そんな言葉がよく似合う今日は、まだ5月なのに天気予報では25℃を超える夏日だと言われていた。
監督とコーチとレギュラーメンバーが宮城に合宿に行ってしまい、居残り組は終始ダラダラとした雰囲気のまま半日の練習を終え帰ってしまった。
…ただ一人を除いて。
部室と体育館の鍵を任されている私は、そんなリエーフの自主練を隅でボーッと眺めていた。
「あー!ちくしょーーーッ!!」
突然の叫び声にビクリと体が跳ねる。
(…私、寝てた…?)
見るとリエーフはコートの真ん中に寝そべり、俺も合宿に行きたかったと足をバタバタさせていた。小さな子供の様に大きな高校生が転がる姿に、私は驚きつつも少し笑ってしまった。
ペットボトルのお茶をそこに置き、私はリエーフに近づいた。
「……スパイク、打つ?」
「えっ、トス上げてくれんの?」
文字通り、リエーフは飛び起きた。
その動きは体操選手のようなしなやかなバネだった。
私はゆっくり頷く。
ずっと一人で練習していたから、人にトスを上げるのは初めてだった。
自身は無いけど、まあリエーフ相手なら問題ないか、と内心思っていた。リエーフ下手だし。
ボールのカゴをネット付近まで転がし、ウキウキした表情で待つリエーフに、OKと手でサインを出した。
私は少し高めに山なりのトスを上げる。
フワッ、と我ながらキレイに上がったそのトスに、助走を付けたリエーフが突っ込んでくる。
ボスっと変な音がしたが、ボールはちゃんと相手のコートに返った。ジャストミートしてないけどまあそんなものかと思い、私は2球目の準備に入る。
「ちょっと待って!」
スパイクを打ち終えたリエーフがこちらへ駆け寄ってくる。がしり、と肩を掴まれ何事かと身構える。
「鈴、…俺より上手くない?」
そんな事かと、青ざめているリエーフを鼻で笑う。
どんなに運動神経が悪かろうが、私は鉄朗達と小学生の頃からボールに触れていたのだ。
ショックを受けるリエーフにはガーンという擬態語がとてもよく似合うと思った。