第2章 4月
「犬岡くん…凄かったね」
つり革に掴まりながら、今日のスパイク練習を思い出す。今日から一年生が体験入部で部活動に参加したのだ。
1組の犬岡くんはバレー経験者で身長も高く、今日の練習でもバシバシ良いスパイクを打っていた。
「…そうだね」
研磨は犬岡くんの事なんてどうでも良さげな表情で携帯のゲーム画面を見つめていた。
「今人がいないの、WS…だっけ?」
去年の3年生が抜けてから、音駒レギュラーのポジションは大きく変わった。練習試合でMBやWSを替えてみたりもしたが、何だかんだで固定化はされていない。
ちなみにポジションとその役割については勉強中で、まだあやふやな所がある…。
「いや犬岡が入るとしたらブロッカーかな。レシーブができる福永がWSに入った方が安定する」
音駒の粘り強いレシーブに、さらに決定力がついたら、きっと凄い強くなると思う。
「再来週って試合なんだよね?」
たしか、5月の終わりに行われる関東大会の東京予選…だったっけ。
そんな話がコーチからあった。
公式戦のあの雰囲気を思い出すだけで、何故か出ない私まで緊張してくる。
研磨がふと携帯から顔を上げ、目と目が合う。
「ねえ、もしかして眠いの?」