第2章 4月
―孤爪研磨と満員電車―
(いつも、こんなに混んでるの…!?)
部活帰り、駅のホームは人で溢れ、混沌としていた。
行きの電車はかなり早い時間帯なので、座れこそしないがそれなりに空いていた。
満員電車が珍しい訳ではないが、これから毎日となるとやはり気が滅入ってくる…。
研磨は「後ろの車両の方が降りるとき楽」と言って、慣れたように人を避けてスタスタと歩いていく。私は付いていくのに精一杯だった。
ドン、と行き違う誰かのカバンがぶつかりよろける。
横や後ろを歩いていたサラリーマン達は迷惑そうな顔をして私を睨みつけながら、足早に追い越していく。
転ぶことは無かったが、前を行く研磨の姿がすこし遠くなった。
(置いてかれちゃう…)
赤いジャージと染めて金色になった頭を見失わない様に必死に後を追う。
「研磨っ…」
声が聞こえたのか、研磨は後ろに私がいない事に気づいて戻ってきてくれた。
「…ゴメン鈴、歩くの早かったよね」
そう言って、研磨は私の右手をしっかり握る。
いきなりでビックリしたけど、研磨は平然としていた。
「離れちゃダメだよ」
またくるりと背を向け人の波を上手く避けながら私の手を引く。
(手を繋ぐのっていつ振りかな…?)
歩きながらそんな事を考えた。
研磨の手は中学生の時より骨張っているというか、前よりバレーをしてる人の手って感じがしてきた。
黄色い線の内側までお下がりください、とアナウンスがホームに響いて、電車がやってきた。
車内は疲れた顔をした大人達で少し混み合っていた。