第2章 4月
鉄朗がまだ来てない事を伝えると、海さんは頭を抱え「初日からかよ…」と呟いた。
「まあ仕方ない、か。…隣いいかな?」
諦めの良さと、切り替えの早さに少しだけ驚く。
もしかしたらこの人は、今までにも私の知らない所で何度も鉄朗の迷惑を被ってきたのかもしれない。
私が控えめに頷くと、海さんは荷物を下ろして地べたに座り込んだ。
音駒高校の朝は静かだ。
よくよく考えるとバレー部以外の運動部は朝練をやっていないのかも。
私がぼーっと校舎を眺めていると…
「…鈴さんは、バレーやってたの?」
沈黙は静かな質問によって破られた。
もしや、これは気を遣われているのかもしれない。
「そ、その……ち、中学の…い、一年の、時だけ」
ちゃんと答えないと、と焦る程、言葉がつっかえて出なくなる。
無駄に時間の掛かったぎこちない返答にも関わらず、海さんは仏のような笑顔で「そうなのか」と相槌を打ってくれた。
「ポジションはどこだったの?」
「…そ、それ…は」
言葉に詰まるのは、焦りとまた別の理由があった。
会話を続けなければ…。
せっかく質問をしてくれたのだから。