第6章 7月下旬
やっとの事で音駒分のビブスを集めた私は、宮ノ下先輩と白福先輩からそれぞれ生川と梟谷の分のビブスを預った。
鉄朗から烏野はたぶん第一体育館にいるって聞いて様子を見に行くと、仁花ちゃんはスパイク練習のボール出しをしていた。
ネットに向かって助走をつけた日向くんが跳び上がり、セッターさんがバネみたいにしなやかな動きでピンポイントのトスをあげる。
(…あれ、でも……トス、長い?)
日向くんが目一杯伸ばした手はボールの芯を捉えることができず、パスッという情けない音と共にボールは相手側のコートへ 力無く落ちた。
そういえば、と今日の試合を思い出す。審判に入った第一試合、烏野の動きはぎこちなく、なんだかバラバラしていた。
日向くんの速攻だって前回はもっと決まってたはずなのに。
何かあったのかな…なんて余計なお世話だとは思うけど、考えずにはいられない。
声を掛けていいのかわからず黙って見ていると、背の高いセッターの人と目が合った。この前仁花ちゃんがすごいって言ってたセッターさんで、名前は…確か、影山くん。
そしてその影山くんは視線がぶつかり合ったまま逸らすことなく凝視してくる……つまり早い話、私、睨まれている。あまりにも鋭い目付きでこっちを睨んでくるから、私はその場に固まるしかなかった。
顔から背中から、暑さとは別の汗が吹き出す。
「どうかしたの?影山くん」
仁花ちゃんはカゴから次のボールを取り出しながら、足を止めた彼に問いかける。
「いや、音駒の…マネージャーが」
不自然に一点を睨みつける影山くんの目線を追って、仁花ちゃんと日向くんが私の姿を捉えた。今はそれだけでホッとする。
「ああ!ビブスの洗濯あるんだった」
しかし今度は仁花ちゃんが一気に真っ青になって小声でブツブツと何かを呟き始めた…。
また悪い方向に考え過ぎているのではないかと心配になる。
「谷地さん!俺たちは大丈夫だからマネージャーの仕事をお願い!」
「私から誘っておいて…本当に、本当にごめんね」
明るく笑う日向くんにペコペコと頭を下げる仁花ちゃんの姿を見て、私は少しでも彼女の助けになりたいと思った。
大きく息を吸い込み、声を上げる。
「あっ、あのね!仁花ちゃん、日向、くん…」
驚いてこちらを見つめる3人。
「……洗濯なら、わ、私に…任せて!」