第6章 7月下旬
「ありがとーござーっしたー」
いつも通りに短く簡潔な監督の話が終わると最後に挨拶をして、合宿一日目はつつがなく終わった。
散り散りになるみんなからビブスを集めていると、反対側のコートからドタドタと荒々しい足音が近づいて来る。
木兎さんかなって思ったら、やっぱり木兎さんだった。
「黒尾ぉ!俺今からスパイク練するんだけどさ、お前ブロック飛べよ」
今がチャンスとばかりに逃げ出そうとしていたリエーフの首根っこを左手でガシリと掴んで鉄朗は言った。
「俺コイツの面倒見なきゃいけねえからパス」
「首!首苦しいッス!黒尾さんっ!」
それでも頑なに逃げることを諦めないリエーフのTシャツは、彼自身の体重でどんどん伸びていく。
残ったビブスは鉄朗の1番とリエーフの11番だけ。どうしよう…。
「いーじゃん、やろーぜ!スパイク練!」
空いている鉄朗の右手をこっちは木兎さんが掴みブンブン振り回し、駄々っ子の様にごねる。
少し離れたところからその様子を見てるけど、真ん中に挟まれた鉄朗はすっごく大変そうだなって思った。
「ブロッカーいねえと意味ねぇんだよー、頼むよー」
「鬱陶しい、木兎死ね。つーか離せ!リエーフは逃げんな!」
「いやコレは逃げるとかじゃなくて……あれ、もしかしてそれ俺が木兎さんのブロック飛べば完ペキじゃないッスか?俺天才!」
「っ!!その手があったか!11番、名前は?」
「俺、灰羽リエーフっス!」
「よしきたリエーフ!あっかーしのとこ行こうぜ!」
木兎さんとリエーフががっちり硬い握手を交わしたところで、痺れを切らした鉄朗の大きな手がボールを掴むみたいに二人の頭を鷲掴みにした。
「キミたちさぁ、人をおちょくるのもいい加減にしないと……どうなるかわかってんだろな、ああ?」
「ちょ、痛い痛い、黒尾スマンっあああああ」
「いででで!マジこれハゲるヤツですって、黒尾さんちょッああああ」
ふざけてやってるんだと思いたいけど、木兎さんとリエーフの悲鳴があんまりにも真に迫ってたから、放っておけなくて。
私は後ろから鉄朗に近づいて、青色のビブスの裾を引っ張った。
「…暴力、だめだよ」
まるで一瞬にして魔法が解けたように、悲鳴を上げていた二人は地面にへたり込んだ。