第2章 4月
ペシペシと大きな背中を叩く。
「えっ、どうしたの?どこか痛い?」
灰羽くんは慌てて私を下ろすと、向かい合い視線を合わせるため中腰になった。
「…サッカー部…は、ダメ」
会話が苦手な私の紡ぎ出す言葉を、何も言わずに待ってくれる。灰羽くんは案外いい人なのかもしれない。
「…そっか。鈴も入りたい部活あるんだな」
ゴメンゴメン、と謝りながら笑う。
「鈴は何部を見に行くんだ?」
「……バレー、部」
「へー意外!そんなちっちゃくてヒョロヒョロなのに運動部なんだね」
(失礼なっ!)
灰羽くんはいい人なのかもしれないけど、同時に思った事が口に出てしまう残念な人なのかもしれない。
まあ、そんな裏表のない性格が人気者の所以なのだろう。
「…あ、…私は、っひぃ!」
訂正する間もなく「よしっ、じゃ助けてもらったお礼に体育館まで送るよ!」と屈託の無い笑顔を浮かべ、その長い腕て私を捕らえる。
また……肩に担がれた…。
そもそも追手もいないし、私ももう歩けるんだし…肩に担ぐ必要がどこにあるのか聞きたい。
「なんか…蕎麦の出前みたいだねっ!」
そんな爽やかに同意を求められても困る…
(面白くなんか…ないよ…)
干された布団の様にぐったりする私より、担いで走る灰羽くんの方が元気なのは本当に謎…。