第5章 7月
「その後、俺ん家で鈴から全部聞いた。両親が離婚した事も、オバサンが家を出てった事も、出てく直前に鈴はオジサンとの子じゃないってバラされた事も。……手足の痣は酔ったオジサンに殴られたって事も。長くなったが、鈴がいつもジャージなのはその痣を隠してるからだ」
まるで言葉を失った様に固まって誰も何も言わない。そりゃあそうだ。イジメも虐待もそこら辺の平和ボケした高校生にとっちゃ、TVのニュースの中、遠い世界の出来事だしな。
「…昔はオジサン、優しかったんだよ。俺も釣りとか教えてもらったし。でもオバサン大分貯金使い込んでたみたいで、オバサンが出てった後マンションのローンだけ残って生活も苦しかったらしい。
酒ばっか飲んで、酔っ払って鈴を……
同じ中学だったのに…俺、なんも気づいてやれなかった…」
不覚にも俺は泣きそうになっていた。
しかしその涙はすぐに引っ込むことになる。
「鈴゛がぁ…がわいぞうっス」
「なんでっ、ぞんなぁ鈴ばっかぞんな目に合わないどいげないんっスがあぁぁ!」
「うっ、く……鈴ざああん」
忘れてた。コイツら総じて涙脆いんだった。
「……ねえクロ、すごい目立ってるよ」
無愛想な声に振り向くと、そこには異変を感じ取った研磨と鈴が様子を伺いに来ていた。鈴は泣き崩れる3人を見てオロオロしてたが、研磨の方は完全に引いてた。オイオイそんな顔してやんなって。
「じゃ、店に迷惑掛ける前に帰るぞ。ホラ撤収撤収」
そう言ってドリンクバー5人分の伝票を手に取って立ち上がる。
ここは一応先輩として俺が払っとくか。…夜久は後から金取るけど。