第5章 7月
個室の中から聞こえる衣擦れの音。その後にビチャビチャとセーラー服を絞る水音が聞こえてきた。
研磨と俺は黙って鈴の着替えを待った。
暫くしてガチャリと鍵を開けて出て来た鈴の姿に、俺たちは息を呑む。
細く白い四肢は、痣で赤黒く染められていた。
これ以上無いほど醜い、悪意の色で。
俺は何も言わず自分のジャケットを鈴に羽織らせた。
「…あり、がと」
強張った表情で、不器用に笑顔を作ろうとしてみせる。
儚げなその姿は虚しくなる程だった。
俺は行き場の無い気持ちを誤魔化すように、鈴の目線までしゃがんでニッと笑い掛ける。
「送ってってやるから風邪引かないうちに帰るぞ」
握った鈴の手は氷のように冷たくて、そんなどうしようもない事実にさえ責任を感じて苦しくなる。
「…てか、おばさんは知ってるのか、この事?」
なんの気無しに聞いたそれが地雷だったなんて、俺は思いもしなかった。
途端に鈴の瞳から、それまで我慢していた涙が堰を切ったようにポロポロとこぼれ落ちる。
「お母さん…もう、いない」
握り返す鈴の手に力が入る。
「帰りたく、ない、の……てつろっ、けんま…助けて…」