第5章 7月
トイレの前で少し待つと、しぶしぶ研磨がやってきて黙ったままTシャツとハーフパンツを差し出した。
俺が受け取ると当たり前のように踵を返して逃げ出そうとするから、腕を掴んで引き止める。
「オマエも一緒に来るんだよ」
研磨は首を横に振る。
「嫌だ…俺には、ムリだよ…」
「ッふざけんな!」
こんな状況だっていうのに、未だに腑抜けた態度を見せる研磨の胸ぐらを掴む。
「今鈴を放って逃げて、ホントにそれでいいと思ってんのか!」
「……だって、クロは怖くないの?…鈴にどう思われてるかって」
今にも泣き出しそうな顔をして、研磨はそう聞いた。
「…そりゃ怖ええよ。恨まれたって仕方ねえし、自分自身サイテーだと思う……でもなぁ、俺らが助けなきゃ、誰が…一体誰が鈴を救ってくれんだッ?あァ?センコーか?警察か?」
こんなのただの八つ当たりだって頭ではわかってる。
「…鈴がこんな理不尽な目に遭ってるのが、俺は我慢ならねえ。…オマエも、そう思うだろ?…なぁ研磨ッ」
大粒の涙を零しながら、研磨は静かに頷いた。