第5章 7月
俺は震える手で扉を塞いでいたガムテープを取り去る。女子1人閉じ込める為に10箇所以上も留めるなんて。ふざけんな。畜生、畜生っ、畜生っ!
全部剥がして扉が開く。やっと開いた、なんて喜ぶ事もできない。
伸びっぱなしの黒髪からポタポタと雫が落ちて。
血の気の感じられない冷え切った白い顔と紫に変色した唇。その隙間から覗く歯は寒さに震えてガチガチと音を鳴らす。
そして俺をジッと見つめる虚ろな瞳は、吸い込まれそうな程に空っぽだった。
喉元まで出掛かった謝罪の言葉を、唇を噛んで無理矢理押し留める。
俺が泣いて謝ったって、鈴が助かる訳じゃねえ。だから今は謝らねえ。
「…着替え、あるか?」
鈴はたどたどしい言葉で、教室のカバンに体操服があると俺に告げた。
どうしたらいいかなんてわっかんねえけど、寒そうに震える鈴を見てられなくて、教えられた教室に走った。