第5章 7月
中学に着くと目立たない裏門の生け垣付近にチャリを止め、すぐさま研磨に電話した。
今度は2回呼び出し音が鳴って、それから繋がる。
「今着いた。どこ行きゃいい?」
「北校舎、3階…男子トイレ」
研磨は先ほどより大分落ち着きを取り戻した様子だった。
「わかった、すぐ行く」
1階の渡り廊下の出入り口から北校舎に入り階段を2段飛ばしで駆け上がる。
(鈴、無事でいてくれ…)
階段の手すりを掴む手に力が篭もる。
それと同時になんて都合の良い奴なんだとヒーロー気取りの自分に虫唾が走る。今の今まで鈴の事なんか忘れて平然と生きてた癖に。
焦り、不安、自己嫌悪…。
俺ん中でいろんな感情が入り乱れて、やっと到着した3階の男子トイレでその全ては絶望へと変った。
一番奥の個室。ガムテープで外から塞がれたドア。不自然に濡れた床。転がるバケツ。
嘘だ。
嘘だ、嘘だ。
「…ご、めんな、さい……もう、許し、て…」
嘘だ、嘘だ、嘘だ。
嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ。
こんなの嘘だと、誰か言ってくれ。
目の前の現実に、ただ立ち尽くす。
「……鈴、なのか」
頭が真っ白になる中で、口をついて出たのはそんな無意味な問い掛け。
「………てつ、ろう?」
恐る恐る、確かめるように俺の名を呼んだのは、いつも俺の後ろにくっついてきた、あの鈴の音のような声だった。