第5章 7月
立ち話もなんだしって思って、鈴ちゃんと俺は1階まで降りて昇降口の奥にある自販機の近くのベンチに腰掛けた。
今日も東京は熱帯夜で冷たい飲み物が恋しくなる。財布、持ってくれば良かったなんてボケっと考えたら、鈴ちゃんがその重い口を開いた。
「あ、あの…覗き、じゃ…無いん、です!」
顔を真っ赤にして震えながら弁明する彼女は、やっぱり可愛らしい。
「用があったのはクロでなんしょ。何?怖い夢でも見たの?」
見事正解を言い当てると、ぱちくり開いた瞳が自販機の光をキラキラと反射させる。
終いには「夜久さん、エスパー?」なんてその澄んだ目で聞いてくるから、まるで騙してるみたいでなんか良心が痛む。
俺は昼間クロが監督たちと話しているのを偶然聞いてしまっただけ。
『アイツの母親が出てったのが、ちょうど今の時期らしくて…毎年、夜寝れなくなって体調崩すんです』
先に言っておくべきでした、なんてクロは恭しく頭を下げて、正直俺なんかが口を挟める雰囲気じゃなかった。
そう、俺なんか……。