第2章 4月
少し猫背で背の高い、サラサラの銀髪。
私は彼を知っていた。
入学した日から、彼はいつもクラスの中心にいて。
先生ともクラスメイトとも、誰とでもよく話し、よく笑う。
私と同じ1年3組の、灰羽リエーフ。
否が応でも目立つ彼は、ただいま絶賛上級生に絡まれ中だった。
(…て、鉄朗、呼ばなきゃ……)
震えだした手で携帯を取り出す。
着信履歴から『黒尾 鉄朗』の文字を探す。
発信ボタンに触れる直前、ふと思い出し、指を止める。そう、今日は部活見学だ。
主将である鉄朗を呼び出したら、バレー部のみんなが困る、かもしれない…。
(ど、どうしよう……研磨、は…)
思い出すのは幼馴染みの、白くて細い腕。
(…ケガしちゃう)
どうにかしなきゃなのに、何もできない。
終いには足まで震えてきた。
3対1。上級生の怒号とともに灰羽くんは突き飛ばされ、尻もちをつく。
(ああっ、だ、誰か…)
周りを見渡すが、遠くから運動部の掛け声がするだけで、私以外誰もいない。
(とにかく、気を反らすんだ)
私はカバンに入れた"ある物"を探す。
まさかこんな事に使う羽目になるとは思わなかった。
灰羽くんは立ち上がり、上級生の一人に今にも殴りかかろうとする…
同時に私は深く息を吸い込み……
「ピィーーーーーーーッ」
JVA、日本バレーボール協会のロゴが入ったホイッスル。それはこの前の土曜日、審判講習会に参加した際もらった物だった。
小さな笛に吹き込んだ息は、想像以上に大きな音で響き…
みんながスローモーションのように私を見る。
…頭が真っ白になりそう。