第5章 7月
洗濯物を干している途中、どこからか楽しそうな話し声が聞こえた。
「研磨のへたくその基準はおれなのかよ!」
(知らない声…でも研磨と一緒なの?)
声がした方を振り返ってみると、研磨と犬岡くんと一緒に歩いていたのは、遅刻のちっちゃい男の子だった。確か仁花ちゃんが日向って言ってたあの男の子。
「あ!やっぱ鈴だ!!鈴ッ!鈴ー!」
夜になっても元気いっぱいの犬岡くんが手を振りながらこちらへ駆けてきた。
「鈴、俺も洗濯手伝う!背高いって便利だろ!ホラッ!」
そう言って私がハンガーに掛けた洗濯物を奪って、がっちゃんがっちゃん音を立てながら物干し竿に並べていく。
「犬岡くん…私やる、よ?マネージャー、だし」
物干し竿は少し高い位置にあるから手伝ってくれるのはとてもありがたいけど、それがみんなの負担になるのは良くない。
「いいの!俺今日あんま試合出てないし」
犬岡くんはニシシって笑うけど、その笑顔はどこか無理してるみたいで、私は何も言えなくなった。
リエーフの圧倒的経験不足を補う為、同じポジションの犬岡くんは最近ベンチにいる事が多い。ベンチでも試合中は誰よりも大きな声を出してチームを盛り上げてくれるけど、心の奥ではやっぱり悔しいはず。
後から来た研磨と日向くんも手伝ってくれて、山ほどあった洗濯物はすぐに片付いた。