第5章 7月
体育館では音駒と森然、反対側では烏野と梟谷の試合が行われていた。
怒られる事を覚悟して監督とコーチに謝りに行くも、鉄朗から事情は聞いていると意外な程あっさりと許され拍子抜けした。
怒られるの嫌いだからそれはそれでいいんだけれども。
「鈴さん、大丈夫?」
控えベンチに戻ると、芝山くんが私がいない間のスコアブックをつけていてくれたみたいで、ありがたいやら情けないやら不思議な気持ちになった。
「黒尾さん、凄く心配してたよ」
スコアブックを渡しながら芝山くんは言った。
「これだって鈴さんが起きた時に責任感じるから、代わりに付けといてくれって頼まれた訳だし」
「…鉄朗、が?」
うん、と彼は頷く。
「いいお兄さんだね」なんて他の人から言われると少し恥ずかしくなる。
照れながら私も うん、と頷いた。
向かい側のコートで試合終了の笛が鳴り、烏野主将の疲れとイライラが入り混じった号令が響いた。
「じゃあ、フライング一周!」
(烏野といったら、仁花ちゃんにも後で謝らないと)
仁花ちゃんとご飯を食べていた所から先の記憶が無いので、多分だけど何かしらの迷惑を掛けてしまった気がする。
少し遅れて音駒vs森然も音駒の勝利で試合を終えた。
この試合の後は1試合休憩を挟んで生川との試合のはずだ。
ベンチに戻ってきたみんなに給水ボトルとタオルが行き渡った所で、私は鉄朗に近付く。いろいろとお礼を言わなくちゃ。
その時、ギイィィィと重い扉が開く音がした。
「おっ、まだやってんじゃん、間に合ったね。上出来」
突如として開かれたその扉に、体育館中が釘付けになった。そして私も。
「"主役"は遅れて登場ってか?ハラ立つわ~」
「……か、かっこいい」
「…え?」