第5章 7月
黒尾鉄朗は焦った。
最近は何かにつけて周りから過保護だなんて言われる程、純真で危なっかしい妹(血の繋がらない)を守ってきたつもりだった。
そんな俺でさえ、面と向かってカッコいいだなんて言ってもらった記憶がねえのに。
惚けた様に開かれた扉の先に立つ男を見つめる鈴。
その視線の先を睨みつける俺。
どっちだ!
オレンジ頭のチビちゃん…は、ねぇよな。
カッコいいって部類じゃねえし。
だとすると、あの1年セッターか……いや、待てよ。
目を凝らしてよく見る。
《セッター魂》
「何なんだよ、あのTシャツのセンスッ!」
「て、鉄朗…?」
驚いたように上目遣いで見つめてくる鈴。
クソ、お前は誰にも渡さねえ!
「いいか鈴、隣に並んでるオレンジ頭がチビなだけで奴の身長は俺より低い。それに赤点補習受けるくらいのバカだぜ?加えてあのTシャツのセンス、ホラもう一度よく見てみろ、よく見たら全然カッコよくねぇだろ?そうだろ?」
「…何言ってるのクロ」
「うっ……け、研磨か」
研磨の大きな瞳から向けられた、恐ろしく冷たい侮蔑の眼差しが痛い。
「いや、だって鈴が烏野の1年セッター見てカッコいいなんて言うからよォ…」
「……言って、無い」
言い訳がましく理由を述べた俺を驚いたように見て、鈴はパチパチと瞬きをする。
「ハァ?じゃなんだ俺の聞き間違いか?」
それも違うと首を横に振る鈴。
「…金髪の、お姉さん…カッコいいよね」
(あ、そっちね)
ガクッと全身から力が抜けるのを感じた。
研磨が鼻で笑うのが聞こえたけど、鈴がどこにも行かないで居てくれるなら俺はもう何だって良かった。