第5章 7月
揺すられ過ぎてヘロヘロになった木兎から赤葦たちの歩いて行った方角を聞き出し、後を辿った。
すると体育館と玄関を繋ぐ廊下で、意外な程簡単に二人が見つかった。しかしその瞬間俺は全身の血が沸騰するのを感じた。
起こり得ないと思っていた、そのまさかが目の前にあった。
「あ、黒尾さん丁度良かった。妹さんが体調悪い様でしたので音駒の方々の所まで送ろうと思っていたんスけど」
言い終わらない内に、獲物に飛び付く獣の様に赤葦の胸ぐらを掴んで後ろの壁に押し付ける。その拍子に頭でも打ったのかゴッと鈍い音がした。
「クソ野郎!なんでオマエが鈴と一緒に女子トイレから出てくんだよ!鈴に何しやがった?」
「これはこれは。噂に聞いた通りの過保護っぷりッスね、黒尾さん」
この状況で眉一つ動かさない奴からは悪魔の様な不気味さすら感じた。
「歯ァ食いしばれ」
右手に力を込める。
ここで背中をポカポカ叩く鈴がいなかったら、危うく傷害沙汰で謹慎を食らう所だったかもしれない。
「…鈴?」
俺を見上げるその瞳に涙を溜めて、訴えていた。
「…赤葦さん、悪くない!」
いつになく必死な鈴に気圧されて、俺は赤葦のTシャツを掴んでいた手を離した。