第5章 7月
「スマン赤葦…」
「いえ、誤解が解けて何よりです。木兎さんには俺からも注意しておきますが、相当妹さんの事気に入ったみたいなんで気をつけて下さいね」
喉まで出かけた言葉を飲み込み、短く「ああ助かる」とだけ返事をした。
さっきは俺も冷静じゃなかったが、コイツほどの男がみすみす殴られそうになるなんて……いや、寧ろ俺を挑発してわざと殴られようとしていたと言う方が正しいのかもしれない。
奴が殴られて何を得るのか、容易に想像できた。
鈴は俺に怒り、赤葦に味方する。
『木兎さん…相当妹さんの事気に入ったみたいなんで気をつけて下さい』
赤葦、そういうオマエはどうなんだよ。
先程飲み込んだ言葉が消化できずに胸につかえている。
「…赤葦さん…ありがとう、ございます…あと、兄が…ごめんなさい」
俺の分まで頭を下げる鈴を見ると、どうにも奴に負けた感が否めない。
「気にしないで。…そういや君の事なんて呼んだらいいかな。二人とも黒尾さんじゃ何かと不便だし」
「っぐ……確かに、そうだなァ」
不便な事なんてなんもねーよと内心思いつつも、今日の俺は赤葦に強く出ることができない。
「あっ…あの、鈴って、呼んで…下さい」
「わかりました。では鈴さん、お大事に」
その時の赤葦の勝ち誇った様な笑みを、俺は忘れない。