第1章 プロローグ
「嘘…アリアが?」
「なんで…なんであの子が…?」
また飛び交う疑問。だが、全体には静寂が保たれ、すすり泣きの声さえ聞こえる程だった。
俺は、嘘だ、と思った。
当たり前だ。なんであいつが弾かれなきゃいけないんだ。そんな理由ないだろう……。
「…早く行こうぜ。そんなうじうじしてたってしょうがないだろ」
イーブィは、普段とは違う真面目な声で言った。
いざという時、持ち前の観察力で状態を見極め、周囲を引っ張ってくれる………こいつはそういう奴だ。
イーブィの言葉を合図に、皆は立ち上がり、とぼとぼと歩き出した。
ブレイブルームは、校舎から離れた、敷地の隅の方に在る。やたらと近づくな、と幼い頃から忠告されてきたあの部屋。
俺は、其処へと迷いなく走った。人混みをかき分け、只ひたすら突っ走った。
——いつの間にか、俺の目にも涙が浮かんでいた。
はっ、悲しいのか?俺は。
「アリア……」
…あぁ、悲しいさ。もう、絶対に逢えなくなるんだからな。
なら、その前に教えてくれ…アリア。
なんで弾かれるんだ。
天綱(てんこう)に触れる様な事でもしたのか?
御方様(おかたさま)を怒らせたのか?
そんな疑問や不安と同時に、希望も抱いていた。
あいつの事だ。皆を困らせたくてこんな事をしたに違いない。そして、「ごみんな〜」なんて笑って詫びるんだろう。今回は許さないぞ。人を巻き込みすぎだ、アリア。まして、弾かれるなんて冗談は……。
視界がじわりと滲む。
ブレイブルームまで、あと少し。
…見えた、
彼処だ。