第1章 プロローグ
暫く経つと、教室の扉が突然開いた。
騒いでいた奴らは扉を振り返る事なく、ピタッと一斉に動きを止めた。
…センセイが来た。
教卓を見なくとも分かる。俺達は叱られ、酷い罰を受けるのだ。
そんな恐怖心の塊として、それぞれの心の中に入り込む。
立ち歩いていた奴等はその場から動く事が出来ず、只々その場で固まるだけだった。
…だが、席に着いていた俺は“それ”を知っていた。
「ユラ…」
扉を開けたのはあの厳格なセンセイではなく、校内の美女として人気を博す女子だった。
隣のクラスのその女子——ユラは、いつもの笑顔とは似ても似つかぬ様な悲しい顔をしていた。
「なーんだ、ユラちゃんか〜」
イーブィがヘラヘラ笑いながら、のろのろと自分の席に着いた。こいつはこういう時、空気を読まない。
正確には、読んでいない“振りをしている”のだが。
「…聞いて」
そんなイーブィを無視し、ユラは唇を噛み締め声を響かせた。
「センセイは此処には来ないわ。至急、ブレイブルームへって伝言が…」
「「「「「ブレイブルーム⁉︎」」」」」
また騒ぎ出した例の輩。まぁ、分からなくもない。俺だって、これでも驚いているのだ。
ブレイブルーム——直訳すれば『避難室』だ。正式名は『糾弾室』。
俺達の犯した罪を問い質し、反省させ、新たな人生を歩ませる為の広い部屋。
一口に言えば、公開処刑の場だ。
「誰⁉︎誰が見弾かれるの⁉︎」
「つーか久し振りだな、うちの學校で弾かれる奴なんて」
皆が口々に疑問を飛ばす。ユラは俯き、その先を言おうとはしなかった。
ユラは多分…誰が弾かれるのか知っている。
でも、悲しいから言えない。余程仲の好い奴だったんだろう。もう逢えなくなると思うと、きっと…………。
……ん?
「ねえ、ユラ…知ってるの?知ってるんでしょう⁉︎」
「……」
女子に揺さぶられるも、ユラは口をパクパクと動かすばかりで、声になっていなかった。
…俺は嫌な予感がした。嫌な予感しかしなかった。
「ユラ……まさか……」
「………ア………
……ア…リア………っ…」
ポロリと零れた涙。必死に紡ぎ出された名前は小さな声だったが、静まり返った教室にはよく聞こえただろう。