第1章 お手を拝借
「…服、のびるから」
「へ?」
「このシャツおろしたてなんだよ」
嘘、ではない。実際、今日が着たの初めてだし。
「ああ~…」
そーゆーこと、みたいな。半分納得したような顔になった。
「カバンも重てぇし。なんか…デカいストラップ付いてるみたいでカッコ悪い」
「ストラップって…アハハハッ!」
…何笑ってんだよ。マジ重いんだよ!肩凝るんだよ、こっちは!!だからそれならまだ手を繋いでる方が――…
…て。これ、俺、すごい言い訳っぽくない?
「大体おまえ、よそ見しすぎなんだよっ」
「だって可愛い店がいっぱい…」
「いかにも田舎から出てきたみたいじゃん。恥ずかしくねぇの?」
「実際田舎から出てきましたんで。あ!あのカフェ素敵~…ね、ちょっと見に行こっ♪」
「はぁ~?さっきメシ食ったばっかじゃ~ん…」
「いいから、ほらっ!すっごい凝ってるよ!」
何言ってもたいして堪えないんだよね、璃子って。俺がちょっと毒舌になったのって、絶対コイツのせいだと思う。
「…入んの?」
「見るだけ~♪」
「…。行くぞオラッ」
「え――っ、見るくらいいいじゃんっ!ちょっ…」
「ダメ。こんなペースで歩いてたら映画間に合わなくなる」
「ヤダヤダ、まだ見たいぃぃ~!!」
「問答無用。つか、目立つから騒ぐな。バレる」
ぎゃいぎゃい文句言う璃子の手を引いて、早々に商店街を抜ける。
道中、何気に手を繋ぐ利点を発見した。
ガッツリ引っ張れるから、俺のペースでリードしやすい。
「ね、ね、潤、あの店、あの店だけっ!ほら、すごい可愛いよ?あのマグカップとかよくない?ねっ」
「うん、いいね。はい見たね。ハイ、じゃ行こう」
「潤の意地悪ぅ~~~っ」
うん。なかなかいいペースだね(笑)。
でも、あれだな。ハタから見たら俺らって、ただのバカップルなんだろうな…。
俺はため息混じりに、まだ未練たらたらの璃子を見た。
「…」
そもそも、カノジョじゃねえんだよ、こいつは。