第1章 お手を拝借
手なんて繋がない。
そりゃね。職業柄…て言うかフツーに、人目、気になるでしょ。繋ぎませんよ、この歳になって。人前で手なんか。
…普段は。
「…」
何か重いと思ってたんだよ、さっきから。
「…おい」
「あ。見て見て!帽子屋さんがある―♪」
…ああ。俺もたまに見に行く、帽子の専門店。ハンドメイドの一点物とか、結構レアなの置いてんだよ。最近覗いてねぇな、そういや…。
て。それはさておき。
「ちょっと」
「うわっ、カットだけでこんなすんの!?高っ!」
「…」
いや、こんなもんでしょ。街中の美容室にしたらむしろ安い方じゃね?
…て!だからそうじゃなく!
「あのさ。手…」
「デコ携帯??なんか重そう…あ!このデザイン可愛い♪」
「……」
…ダメだこりゃ。完っ全に浮かれてる。ま、久々だから無理もねぇけど。
いや、それはいいんだよ。でもさ。気付いたら璃子、俺の鞄つかんでんだよね。そら重いっつの。
不安なのはわかるよ?この程度の人混みでも、はぐれたらおまえ、確実迷子だもんな。わかってるけどさ。
…重いんだよ!マジで。だからその手を離しなさい。
と、俺は言いたいんだけど。
「…」
横見たら、璃子、またキョロキョロと目移りしては大ハシャギ。もちろん俺の話なんて聞いちゃいない。顔キラキラさせちゃって…ホント、楽しそうですねぇ。
ようやく鞄から手を離したと思ったら一瞬で、今度はシャツの裾つまんでやがるし。たぶん無意識に。
…はぁ。こりゃダメだ。
こうなったら仕方ない。
「…!」
俺のシャツにぶら下がってた璃子の手を掴んだら、スゲーびっくりした顔で俺のこと見上げた。…ちっちゃいねー、相変わらず。
「な、に…?」
「まだこっちのがマシ」
そう言って俺は、彼女の手をちゃんと握り直した。
「…手…」
璃子がポカンとしてるのも無理はない。
『手なんて繋がねえよ、ガキじゃあるまいし』
かねがね、俺はそう言ってる。もちろん相手がカノジョだろうと関係ない。だって人前で手を繋ぐとか…恥ずかしくない?
じゃあ、どうして今繋いでいるのか?
…それはね。