第10章 別れのとき
ホントは俺、もうずっと前から気付いてた。璃子への気持ちに。
璃子が東京に来るたびに、この瞬間が、別れ際が一番キツかったから。
まだ離れたくない
帰ってほしくない
そう思ってる自分に蓋をして、笑顔で『じゃあな』って手を振ってたから…。
今だって、俺は絶対車から降りねえぞって、自分に言い聞かせてる。
もし降りたら、本当に璃子の部屋に押しかけてしまいそうだから。この窮屈な運転席でカラダを抑えることで、なんとか理性を保ってる。
「…じゃ、俺帰るわ。元気で」
窓を閉めようとしたら、璃子が手を伸ばした。
「あ、潤っ」
「ん。…何?」
「今日、ありがとね」
「…おう」
「楽しかった、よ」
「…うん。じゃ、気をつけてな」
…大丈夫だ。
まだ、なんとか笑顔で手を振れる。
なんとか。
だいぶギリ、だけど。