第10章 別れのとき
ホテル到着。
道中無言だったのが、俺は逆に心地よかった。俺のこと、ちゃんと意識してくれたんだって。これでいつも通りの反応されたら、さすがに凹むだろ。
地下の駐車場で車を停めても、互いに無言だった。璃子もすぐには降りようとしなかった。まるで時が止まったかのように、ひたすら静かな時間が流れてた。
「…俺、明日早いから。帰るよ」
「ん、あ、そっか…」
「じゃなきゃ、このまま――…って気分」
「え?」
「このまま、オマエの部屋…押しかけたい」
「潤…」
「もっと俺のこと、意識して欲しいから。ちゃんと…男として。そういう、対象として」
「…」
「でも…さすがにそれはね、うん」
「…」
「…次来る時までに、考えといて。さっきの」
「…」
あれから璃子、ほとんど口開かない。もうホントにお別れなのに、それはあまりに寂しすぎる。
「俺のトラウマ、何とかしてくれんでしょ?…看護師なんだし」
俺が皮肉交じりに笑うと、璃子も少し笑った。
「…うん、わかった…」
そう言ってドアに手をかけた璃子。思わず俺は、肩を掴んでた。
「…あ。ごめん」
「う、ううん…」
無意識の行動に、自分自身苦笑い。