第1章 悪夢の再来
「もう!気付かなかったわ、いつからそばにいたの?」
「ほんの少し前だよ。君のことだからきっと迷子になってるだろうと思ってね、迎えに来たんだ」
「ま、迷ってなんか…」
「ないって言える?」
ぐっと言葉を飲み込むノエルを可笑しそうに見つめるウォーレン。
この恋人はいつだってそうだ。からかうことが大好きで、そこに楽しさを見出している。
次こそは大人の態度で流してやろうと思っているものの、ノエルは毎回彼の巧みな話術に踊らされていた。
「意地悪な人」
「おや、怒ったのかい?…機嫌を直してくれよ、俺の大切なレディ?」
拗ねて頬を膨らませた彼女を見たウォーレンは少女を後ろから抱き寄せ耳元で優しく囁く。
彼女の反応が面白くて、ついからかってしまうのだが、機嫌の変わりやすいノエルの性格上、止めどきが見つからなくて時々こうして機嫌を損ねてしまう。
その度にあの手この手で甘やかすのだから、ウォーレンも同じくらいノエルに踊らされていた。
違いがあるとすれば、踊らせている側が故意か無意識かくらいだろう。
「ふふっ…怒ってなんかいないわ、とても大切な日だもの」
「大切な日?」
「私の17歳最後の日。ねぇ、明日の誕生日パーティーにはあなたも来てくれる?」
今日、ノエルが彼に会いに来た理由。
それは明日の誘いをするためだった。
次期村長の彼女が一人前とされる18歳の誕生日には盛大な催しが開かれる。
その場に、是非目の前の大切な人にもいてほしかった。
「…そう、だね。行かせてもらおうかな。他でもない、君の誕生日だから」
「ほんと!?嬉しいわ、あぁ、ますます明日が楽しみになっちゃった!」
やや間があったものの、ウォーレンは小さく笑って頷く。
それを見たノエルは歓喜の声を上げ、嬉しさからかその場で1回転して見せた。
「でも、心配だな」
「何が?」
「明日は君の誕生日でもあるけれど…あの忌まわしい日でもあるだろう?」
ウォーレンの言葉にノエルは口をつぐむ。
それがどれだけ恐ろしく、悲しいものであるかを理解していたから。
「明日は…3年に1度の忌まわしき行事。最も輝く娘が、吸血鬼に生贄に捧げられる日だ」