第1章 悪夢の再来
それはこの村の風習だった。
ノエルが幼い頃にはすでに確立されていて、何人もの少女が命を落とした。
最も輝く娘。
それを選ぶのは吸血鬼であり、村人は自分たちの娘が選ばれないことをただ必死で祈ることしか出来ない。
ただしここ数年の間で、変わったこともまた存在した。
1つ。
吸血鬼が誰を選んだのかは選ばれた本人しか知ることが出来ない。
これは吸血鬼が突然行い始めたことだ。
以前は娘の自宅に印が付けられ、村人全員が生贄を知ることが出来た。
しかし数年前、生贄となった娘の恋人が彼女を助けに向かったことでそのシステムは変化した。
どうやって知らせているのかは分からないが、夜のうちに娘は忽然と姿を消すらしい。
2つ。
生贄が捧げられる場は生贄の塔とは限らない。
これもまた、数年前男が助けに行ったことで変わったものだ。
今までは娘が生贄の塔へと向かい、そこで死を迎えていたのだが、吸血鬼によってどこかへ連れて行かれる時もあるようになった。
それは完全にランダム、というより吸血鬼の気分次第。
つまり、誰も邪魔することが出来なくなったのだ。
「そうね。でも、私が村長になったらこんな風習終わらせるわ」
自身の誕生日と、生贄に捧げられる日が同じであるノエル。
素直に喜べない年が、必ずあった。
何度も見てきた。
娘を、恋人を、妹を、姉を失い涙する人たちを。
その度に心に誓ってきたのだ。
こんなことは終わりにしなければならないと。
「…そんなことが、出来ると?」
「吸血鬼だって、対話が出来ないわけじゃない。なら、きっと道はあると思う。この村は、前に進まなければいけないわ」
ウォーレンの声のトーンが下がる。
それを気にすることなく、強い決意のこもった瞳で遠くに見える生贄の塔を見つめた。
なぜ娘を必要とするのかはノエルには分からない。
分からないからこそ、知らなければ。
「君は、強いね」
「あなたがいるから。大切な人がいるから私は頑張れるの。だから…ずっとそばにいてね、ウォーレン。約束よ」
ぎゅっとウォーレンの手を握ったノエル。
その白くて小さい手が微かに震えていることにウォーレンは気付いた。
「…あぁ、もちろんだよ」
そんな彼女がたまらなく愛しくて、彼はそっと少女にキスをした。