第1章 悪夢の再来
「お父様が来てたのね、驚いた…」
「何か言われたの?」
「…あんまりお義姉様を困らせるなって」
習い事をサボるなと言わない辺りさすが父だ。
自分に対して絶対の信頼を寄せるノエルにそう言ったら効果抜群だろう。
彼女の扱いを心得ているのだ。
実際彼女は困ったように眉根を寄せている。
ハルカ自身はこうしている時間も気に入っているので困ることはあれど、やめて欲しいとは思わないのだが。
「それよりほら、ドレスを広げて見せて頂戴」
「そうだった!あのね、この3着で悩んでるの!」
話題を逸らし、彼女の気を紛らわせる。
するとノエルは大事なことを忘れていたと言わんばかりにしまったという顔をして、抱えていたドレスをベッドの上に広げた。
3着とも派手すぎず、かといってシンプルなわけでもない適度な装飾のついたもの。
確かこれらはつい先日作ってもらったものだった。
オレンジと、青と、薄紫。
それぞれ異なる色合いのドレスで、いずれも仕上がりは良い。
だからこそ彼女も迷っているのだろうが、この3色ならハルカには迷う理由がなかった。
「これが良いと思うわ」
「…オレンジの?どうして?」
「だってこの色が好きなのでしょう?あなたの大切な人は」
即答されると思っていなかったのか首を傾げたノエルをからかうようにそう言えば、案の定彼女の顔は途端に朱に染まる。
そんなこと言われると思っていなくて心の準備が何も出来ていなかったノエルは、義姉の言葉に何も言えずに俯いた。
「…分かっていたの?」
「薄々ね。だってこの間誕生日用に違う服を注文していたのを見ていたんだもの」
「…もう!それならそうと言ってよ…!!」
誕生日パーティーのためのドレス選びとわざわざ理由を作ったのに、義姉にはお見通しだったようだ。
ノエルがドレスを選んだ本当の理由は、
今日会いに行く恋人のため。
少しでも綺麗な自分を見て欲しいという、乙女心からだった。