第1章 悪夢の再来
「ハルカ」
「!お義父様…」
ノエルと入れ違いに入ってきた義父__つまり村長の存在に気付かなかったハルカは慌てて頭を下げる。
それを気にするなと直させた義父は窓際にもたれ、昔を懐かしむように目を細めた。
「もう…あいつが死んで18年になろうというのだな」
「そうですね…早いものです。私がここに来て、そのくらい経ったなんて」
「ノエルももうすぐ18となり、結婚を考える時期となる。あの時と同じことにはならないでほしいものだ」
「お義父様、それは」
「あぁ、すまない。お前の傷を抉るような真似をしてしまったか」
「いいえ…ただ、怖いのです。あの子も同じ恐怖を味わうのではないかと。あんな風習、無くなればいいのにと何度思ったことか」
「難しいだろうな…村人は吸血鬼の存在を信じている。彼らがこの村から立ち去らない限り、この悲劇は終わらんだろう」
3年に1度の不幸。
光り輝く、これから人生を謳歌していくような少女が何の罪もなしに死んでいく。
誰も望んでいないのに。
かつて自分も生贄に選ばれた経験を持つハルカは、どうか義妹は同じ思いをしないでほしいと願うしかなかった。
やがて我に帰った彼女は義父の用件を聞いていないことを思い出す。
「ところでお義父様はなぜここに…?」
「あぁ、ノエルを探しに来た。あいつ、お転婆なのは相変わらずのようだな。せっかく呼んだ講師もカンカンだったぞ」
「…あの子は気分屋ですから」
「それでも皆から好かれるのだから、良い村長となるだろう…さて、私は講師のご機嫌取りでもするかな」
「申し訳ありません…」
「なに、なんだかんだ私も楽しんでいるから構わないさ」
万人に愛されるのは彼女の兄同様。
やはり面識がないとはいえ兄妹だから似るのだろう。
笑っていながらもその背中がどこか寂しそうな義父を見届けると、入れ違いにノエルがたくさんのドレスを抱えてやってきた。