第1章 悪夢の再来
良家の娘であることの宿命として、ノエルも例に漏れず様々な稽古をこなしていた。
マナー、ダンス、声楽、ピアノ。
しかし、美しく優雅に、そんな両親の願いとは裏腹に彼女はそんな風には成長せず。
「また?…先生が嘆いているのが目に見えるわね」
「面白くないんだもの…ダンスなんて」
踊りより野原を駆け回ることを好み、
ピアノを弾くより動物と触れ合うことを望む。
そんな彼女が唯一楽しめる習い事は声楽のみで、それも自分の歌いたいように歌わせてもらえないと憤慨していた。
「そんなことより!ね、お義姉さま」
「はいはい。あなたのドレスを選びましょうか」
自由を望み、家族を愛した少女は年こそ離れているもののハルカを姉のように慕う。
自分に好意を向けてくれる相手を無下にできるわけもなくて、いつも彼女はついノエルを甘やかしていた。
レッスンを抜け出してきた彼女を匿い、上手く父に誤魔化し、先生に謝罪をする。
ダメだと分かっているのをついやってしまうのもノエルの魅力ゆえだろうか。
当の本人はハルカの了承を聞いた途端、嬉しそうにはしゃいで自室からドレスを持ってくると部屋を軽やかに出て行く。
残されたハルカは1人、困ったように笑いながらも読んでいた本を片付けた。