第1章 悪夢の再来
人里離れたある村。
深い森に囲まれたその村は外界との繋がりを断たれているものの、住人同士の仲は良く争いもない平和な地である。
その村を治める村長の住む自宅は森を背にした高台にあった。
村長の屋敷と呼ぶに相応しい豪華な作りのその館は外壁に囲まれており、中を見ることは出来ない。
しかしその館に住む村長一家を村人は尊敬し、愛していた。
中でも特に愛されていたのが_______。
「お義姉さま!」
「あらノエル、どうしたの急いで」
ノエル。
村長の娘であり、次期村長でもある。
本来彼女の兄が父を継ぐはずだったのだが、彼女の兄はノエルの生まれたその年に亡くなっている。
ノエルが生まれたのは兄の死より後なのだ。
故に彼女に兄との記憶は一切無いが、それでも兄について多くのことを知っていた。
その理由が義姉、ハルカの存在である。
「どうしたのじゃないわ、明後日は何の日かもちろんご存じでしょう?」
「ふふ…もちろんよ、あなたの18の誕生日ね?」
「流石!なら分かるでしょう、私はお義姉さまにドレス選びを手伝ってもらいに来たのよ」
次期村長として皆から尊敬されていた兄が亡くなったのはハルカと結婚したその日のこと。
死因は聞かされていないため分からないが、そのあまりにも突然な死に当然村はざわめいた。
中にはハルカが殺したのではという憶測までもが飛び交う事態となってしまい、その心無い攻撃から彼女を守るために、村長__ノエルの父は彼女に共に暮らすよう頼んだという。
その提案を承諾し、村長の館で暮らす彼女は後に生まれたノエルの良き話し相手となったのだ。
「でもおかしいわね。あなたこの時間はダンスのレッスンじゃなかった?」
「……もちろん抜け出してきたの、ダンスは退屈で嫌いだから」