第2章 望まぬ再会
「風習を終わらせる?ふふっ、君は不思議な子だ…まぁ、どうせあと少しの付き合いなのだけれど、もう少し話をしたくなったよ」
「ありがとう…えっと、名前をお聞かせ頂けるかしら?私はノエル」
「アイレス。よろしくね」
アイレスという名の吸血鬼は、どうにも異様だった。
人間離れした美しさ、その妖しげな瞳。
その瞳に囚われると自分が自分でなくなってしまうような恐ろしい感覚に襲われる。
しかしその奥で、人間らしい感情か揺れ動いているような気がしてならないのだ。
「あなたも…変わってるわ」
そうとしか返せなかったノエルは真っ直ぐに彼に視線を向けた。
囚われないために、せめてもの抵抗の印として。
しかしアイレスはそんな彼女の反応も一笑に伏してしまうと、流れるような動作でノエルの首に手を添える。
「忘れないで。君の命はボクらが握っている。下手なことは考えない方が良い」
今、彼がほんの少し力を込めれば細くて弱い彼女の首はあっけなく折れる。
吸血鬼と人間には、それだけ力の差があった。
圧倒的な力、そして恐怖。
そうして人々は吸血鬼に屈服していたのだ。
負けるものか。
ノエルは強く唇を噛む。
負けてなるものか、この美しく冷たい吸血鬼に。
ここで自分が死ねば、また3年後に別の少女が死ぬ。それだけは、もうやめさせてみせる。
「ご忠告、肝に銘じておくわ」
震えつつも、しかし確かな声の通りで彼女は答えた。
その反応を見たアイレスは、やれるものならとでもいいたげな挑戦的な笑みを浮かべる。
やがて彼女の首から手を離し、再び上物のソファに腰を下ろした。
そのまま窓の外に視線を向けると、何かに気付いたように呟く。
「帰ってきたみたいだ、彼らが」
その言葉と同時に。
2人のいる大広間の窓が一斉に開き、風でカーテンがはためいた。
その突然の強風に目を開けていられなかったノエルは目を手で庇うと、やがてアイレスの視線の先へと視界を移す。
そこには、
「戻ったよ、アイレス」
「村人はいないようだ。これで今年も邪魔をする者はいない」
2人の吸血鬼が佇んでいた。
1人は元村長の息子、マサフェリー。
そしてもう1人は、ウォーレン。
誰より愛しい、ノエルの恋人だった。