第2章 望まぬ再会
深くて、暗い森の中。
昼でさえどことなく怪しげな雰囲気を醸し出していたが、夜は一層その不気味さを露わにする。
光の入らないほどに生い茂る木々。時折羽ばたく怪しげな黒い鳥。その中をくぐり、進み、潜り続けたその先に。
吸血鬼の住む館はあった。
「さぁ、どうぞ」
「……」
部屋から連れ出された今年の生贄____ノエルは男性の促し通りにその屋敷へ足をふみ入れる。
中に入った瞬間、そのあまりの広さに息を呑んだ。
おそらく村長宅である自身の家よりも広いであろうここは、あまりの人気のなさに落ち着きのなさを覚える。
娘たちが生贄の塔以外に連れ去られたのはここだったようだ。
どうやらここは彼らの根城であるらしい。
入り口すぐにある応接間と思しき部屋に通されて、値段の張りそうなソファに座らされた。
「そんなに怖い顔をしないでほしいな、何もすぐ取って食おうってわけじゃないんだから」
「…どういうこと?」
「まだボクらの自己紹介も済んでいないだろう?」
優雅な手つきでお茶を差し出されるが、正直飲む気はしない。
曖昧な笑みだけを返すと、青年は然程気にしてなさそうに正面の椅子に座った。
「吸血鬼は…何人いるの?」
「3人だよ、ボクを入れて。今ちょうど他の村人が来てないか見回りに行っているんだ。きっともうすぐ帰ってくる」
「………そう」
思ったより冷静に会話が出来ていることに気付くノエル。
普通ならもっと取り乱して助けを求めそうな気もするのに。
「君は随分と冷静だね、ボクらが怖くないのかい?」
同じことを思っていたらしい青年の問いかけに、ノエルはなぜかしらねと肩をすくめた。
「何となく…選ばれるかなって思ってたみたいね。そしてその時は、こんな風習終わらせてみせるって」
風習を終わらせるには彼らに会うしかない。
彼らに会うには生贄になるしかない。
自分でも気付かないうちに、ノエルはその考えのもと己が生贄に選ばれることを覚悟していた。
それはこれ以上犠牲を増やさないため。
2度と、大切な人たちを悲しませないため。