第2章 旦那
「犬飼選手!去年は見事な活躍でしたねー!」
陽気な調子のテレビ番組は、他の選手より幾分アップで冥の姿を捉える。
「ほら○○!冥君よ!」
「母さん、分かったから!」
もう動じる気の無いあたしは、ポン酒片手にじっとテレビを見る。
・・・本当は正月くらい、我が家に遊びに来て欲しかったんだけどなぁ。
この卵焼きも食べて欲しかった。もう1つ手づかみで口に放り込む。我ながら会心の出来だった。
「去年は沢村賞を獲得なされましたし、今年も狙っているのでしょうか?」
女子アナにマイクを向けられ、冥は照れるのも忘れてキリッとした顔になった。
「賞は関係無いっす。誰にも打たれない球を投げる、それだけです。」
授賞式で同じような事を言って、女の子が狂ったように黄色い声を上げていたのを思い出した。
「なーんてかっこいいんでしょっ。」
母さんの言葉にあたしもうんうんと頷いた。
テレビの向こうの冥は、隣の選手に「こいつぅ!」と肘で横腹を突かれていた。