第1章 恋人
「あらっ、ほら○○、冥君よ!」
母さんが指差したテレビには、正月生放送番組のお祭り騒ぎに登場する冥の姿が。
「やっぱりかっこいいわねー。」
母さんが感嘆のため息を漏らす。
人気野球選手の面々の中で、冥は明らかにイケメン枠として出て来ていた。
しかしその顔はどう見ても照れており、これがまた「ヘタレ可愛い」などと世間ではもてはやされている。
確かに、冥は隣に立っている国民的アイドルにも負けてないビジュアルだ。
身長や筋肉美も考えたら、アイドルにも勝っているんじゃないだろうか?
番組進行役の女子アナも、壇上の女優さんも、心なしか色めき立ったいるように見える。
あたしには、いい加減にテレビでイケメンとして注目されるのにも慣れろよ、としか思えないのだけれども。
「こんな人が○○の恋人だなんて・・・。」
「信じられんな。」
「父さん!?つまみ没収するよ!?」
睨みを利かせて器を引ったくる。
「没収されんでも、お前が全部食うんだろ?」
「その通り。」
あたしは煮物を全部口にかっ込んだ。
「だから○○、女らしくしないと・・・。」
「こーんな素敵な彼氏がいるんだからいいんですー!」
「でも結婚したわけじゃないでしょう?」
ぐさっ!
「・・・あっ。」
「○○の結婚、かぁ・・・。」
「気にしてるのにぃ・・・。」
父も娘もともども、母にハートをぐっさり抉られてしまった。