第10章 逆巻という名
華やかなピアノの音色が会場に響き渡り
その中に溶け込むように2人は踊り続ける
シュウの的確な指示で場の雰囲気は一気に素晴らしいものに変わった
「シュウ....さっきはありがとう」
ルカは申し訳なさそうにお礼を言う
「全く、あんたの無防備さには呆れる」
シュウは少し冗談混じりに言った
「ごめんなさい
けど....やっぱり、みんな私が人間だって分かってるんだね」
私は人間で彼はヴァンパイア....
それを改めて理解した気がする
少し不安気な彼女の表情に、シュウは少し考え込むような顔をした
ヴァンパイアにとって人間は、喉を満たす餌のような存在だといわれてる....
その事を彼女に教えたのは他でもない自分なのだが、シュウはふとくだらない言葉を思い付く
「あんたは....”ヴァンパイア”に....なりたいって思う?」
「!」
ルカは突然の事に驚く
周りの人々がダンスを続ける中で、一瞬2人の時間だけ止まったように思えた
ーーー私が....ヴァンパイアに....
ルカが呆然としていると、シュウは苦笑いを浮かべ、彼女の額に軽くキスを落とす
「ッ////」
「ばか、冗談だ」
ルカは思わず足を止め、照れるように頬を赤くした
「リカの言った事なら気にしなくていい
あんたは俺の婚約者なんだ
人間だろうがヴァンパイアだろうが、関係ない」
「シュウ....」
偽りだと言う事を忘れそうなくらい、彼の言葉は嬉しかった
けれど、冗談だと言った彼の表情はどこか意味深で....
「シュウ....私ーーーーー
パチパチパチ....
「!」
背後から拍手の音が聴こえ、2人は振り返る
そこには、背の高い、長い髪をした、美しい男がいた
一目見て彼が只者ではないと分かるほどの威圧を感じた
でも....この人....どこかで....
一方で、シュウはその人を見て心底嫌そうな顔をする
『素晴らしいダンスだった』
そう言って彼は微笑んだ
ーーーこの人は一体....