第10章 逆巻という名
『おい』
必死に抵抗していると、私の背後から聞きなれた声が聞こえる
目の前の男はその人物を見て、青ざめた様に顔色を悪くした
「し、シュウ様....ッ!!」
「っ!」
振り返ると普段より険しい顔をしたシュウが私の肩に乗る男の手を振り払う
「お前、誰の女に手を出してる」
シュウは私の体を引き寄せる
だんだん周りの人もおかしな様子に気づき始め、視線がこちらを向く
「も、申し訳ございません....シュウ様」
男は深々と頭を下げる
その男は先程までとは違ってあっさりと引き下がり、改めてシュウの圧倒的な存在感を思い知らされた
男が去った後、周りの雰囲気はどこか重く感じられ、私はその居心地の悪さに思わずシュウの手を握ってしまった
彼もなにか言うより先にその事に気付き、ため息をつく
「....仕方ない」
「えっ....」
シュウはピアノの側に待機していた執事に合図を送る
執事はこちらに一礼をして周りに指示を出す
すると、照明がゆっくりと暗くなり、ホールの真ん中にはスポットライトが当てられる
会場には華やかな音楽が流れ始め、多くの男女が中央でダンスを踊り出した
突然の事に驚いていると
「ルカ」
握っていた手を引っ張られるのが分かった
「し、シュウッ!!」
前を歩く彼が振り向いて軽く微笑む
「踊るぞ」
「ッ!!」
彼は会場の中央まで進み、私の体をぎゅっと抱き寄せ
気づくと私は光の中に居た
目の前にはシュウのネクタイが見えて、そっと顔を上げる
シュウと視線が重なると、彼はゆっくりと私の手を取り、腰に手を当てる
2人が中央で踊り出すと、周りの人々の視線は一気に集まった
ルカが周りを気にしているとシュウはより一層彼女を引き寄せ、耳元で囁く
「あんたは、この音楽と俺の声を聴いて、
俺の事だけ考えてればいい」
「っ///」
優しく微笑むシュウにルカは思わず顔を赤くする
けれど、不思議と体が軽くなり、ぎこちなさも無くなっていた
『美しい....』
『素敵だわ....』
2人のダンスは周りを魅了し、誰もが羨望と尊敬の眼差しを向けていた