第10章 逆巻という名
「........」
リカさんと別れた後、シュウは少し疲れたと言って、会場の端の席に腰掛けていた
私もその隣に座り、会場の様子を伺う
ふと会場の奥に目をやると、そこには数人の女性を引き連れたライトの姿があった
彼を取り巻く女性は、派手なドレスを纏った化粧の濃い人ばかりだった
けれど、この場ではそれが当然のようであり、私のように子供っぽい容姿では逆に浮いているようにさえ思えた
明るく灯された光の中で談話を続ける人々を見ると、かつての貴族社会のようでふわふわとした気分になる
隣で目を閉じるシュウを見ると、彼もまたおとぎ話の王子様のように見えてくる
先日、リムジンの中で同じことを思った事を思い出す
けれど、あの時とは少し考えが変わっていた
逆巻という王家の長男に生まれ、ヴァンパイアとして永い年月を生きる彼には、きっと私には想像出来ないくらいの悩みや重荷があるのだろう
しかし、その事を知り、本当の彼を見ている者がこの会場に居るのだろうか....
先程から彼に視線を送っているあの女性達は、彼の何を見ているのだろう....
「あっ....」
ルカが見ていたテーブルの側で男性のハンカチが落ちるのが見えた
彼は気づいていないようで、私は席を離れ急いで拾いに行く
「あの、落とされましたよ」
そう言って私はハンカチを差し出した
「あぁ!すみません」
男性は笑顔で礼を言う
ルカはよかったと思い、その場を後にしようとする
しかし、突然その男性は私の肩を掴む
「貴方は...人間ですね
珍しい、この夜会に人間が呼ばれるなんて」
「ッ!」
リカさんの言ったとおり彼は一瞬で私を人間だと見抜いた
もしかしたら、今この会場に居る人間は私だけなのかもしれない....
ルカが下を向いている中、男は彼女の首筋を見て、目の色を変える
「よかったら、少し外でお話しませんか?
今日は、綺麗な満月ですよ」
男はルカの肩を強く掴み逃がさないようにする
「や、やめて下さいッ!!」
彼の瞳を見て私は身体が強ばるのが分かった
彼女は知っていた
欲望に満ち、首筋を見つめる
この紅く、恐ろしい瞳をーーーー