第9章 捨てられ船
ドンッ!! …何かが壁に思いっきり叩きつけられたような音。私は嫌な予感がし、足を早めた。それはルビーも同じだったようで、彼は私の先を行った。その音はとある客室からしたようだった。
「サファイア!!」
ドアから様子を伺うつもりが、中を見た途端ルビーは飛び出した。すぐに女は警戒態勢に入った。
「……あぁ、さっきの……ということは…!!」
視線がルビーからタニさんへと行き、そして私へと移った。そして、女の顔は歪んだ。……やはり気づいていたか。
「何をした!!」
ルビーが勇敢にも女を睨みつけた。サファイアたちは床に倒れ、そして辺りは水浸しだった。……みずでっぽうにしては、水の量が多い。それによく見れば、天井にもみずが広範囲に染み込んでいる。…つまり、このわざはみずのはどう…。そして、こんらんしたところをはきだす攻撃で、とどめか。……容赦がない。
「あらあらあら!! 初めまして! 私はアクア団幹部のイズミよ。あなたとはカナズミ以来よね?」
女はルビーを無視し、私に1歩近づいてきた。私は1歩下がった。女の口元は孤を描いていたが、しかしその目からは殺気が感じられ、今にも襲いかかってきそうだった。
「あら無視? それとも私なんて頭の隅にも残っていない? こっちはあんたのその生意気な声、死ぬまで頭にこびりついているわよ!!」
…情緒不安定な女だ。私はため息をつきそうになった。この様子じゃ、カナズミでの任務で上の人にかなり怒られたのだろう。しかし、そんなこと私には関係ない。どうやってこの状況を逃れるかが大事だ。
「大体! あの下っ端が悪いのよ! 落ち合う前で追われてるって何!? 人質なんて取るからじゃない!! 馬鹿じゃないの! しかも、ガキどもにやられてるし!!」
ヒステリックに喚き散らす女。私はちらりとルビーたちの方を見た。タニさんは呆然と女のヒステリックっぷりを見ているし、ルビーはまだ意識の戻らないサファイアたちを気遣っている。…意識がないサファイアとチャモを連れて逃げるのは無理だ。だったら……
「ひ、ひぃー!! た、助けてー」
コミュ症は演技すら出来ないのか…。私は自分の大根役者っぷりにうんざりしながらも、ドアを開けて外へと向かおうとした。しかしだ。
「そうはさせないわ」
ぺリッパーのはきだす攻撃で、ドアは強引に閉められた。