第9章 捨てられ船
周りは白い霧に包まれて、視界は不良。敵は勝手に話を盛り上がってるのを装いつつ、こちらの様子を伺っている。しかも、空を飛んでいるのか、たまに聞こえてくる翼の音。その力強い羽ばたき具合からすると、中々の強さ。
対してこっちは、右を見れば頼りにならない2人組。出入口からは微妙に距離があるし、まず動けば間違いなく攻撃される。
「…はぁ」
本当に嫌になる。最近、こんなのばっかりだ。最初はクソ親父だけを巻けば勝ちだと思ってたのに……人生そう上手くは行かないということか。すると、今にクソ親父も私の目の前に現れるのでは…??もしそうなった場合…考えたくもない。今の私の気分はどん底だった。だからこそ、私は欲した。光が…何か光が欲しい…、と。
「あ…」
そして、ある考えがぱっと思い浮かんだ。私はモンスターボールをそっと取り出し、同じくポケットに入っていたそれを近づけた。
「エ、エメ!!エメ!!あいつら一体なに??」
流石にこいつも、敵の異様さを感じ取ったようだ。目立つ動きを避け、私の腕を掴む。正直言って邪魔でしかない。私はルビーを無視し、口を開いた。それは思わず出てしまった本音でもある。
「…勝手に話進めちゃってるとこ悪いんだけどさ、私別に海好きじゃないんだよね」
それは、思ったより敵の癇に障ったようだ。重々しいものがこちらを貫く。
「は?」
まず騒いだのは女の方。一方的に、海への素晴らしさかなんかを口に出し、自論を叫ぶ。そして、男の方はブツブツと何かを言っている。…どっちともキモいしうざい。しかし、視線をこちらに向けることには成功したな。私は再び口を開いた。今度は少し大きな声で。
「私、海よりも家派なんだよね。大体、自論を押し付けてくる奴が一番嫌いだし、それにあんたらの言ってること全然訳わかんないし。そんなに海が好きなら、一生沈んでろ。酸素ボンベなしにさ!」
…我ながら下手な挑発だな。この霧で相手の顔が見えないから、つい話しちゃったけど…流石だてにコミュ症やってないな。話が下手すぎる。これじゃあ、呆れさせることはできても、怒らせてこちらに突っ込ませることはおろか、近づかせることすらできな……
「はぁ!! 何この生意気なガキ!! ボッコボコにしてやるわ!」
先程より近づいてくる声。……できたわ。