第6章 免許2
今日は一人の仕事をした後、教習に行くつもりだった。
普通に電車で移動して、行くつもりだったんだけど……
____尾けられてる?
そう気付いたのは、駅に行くための近道として使う小さな暗い道だった。
気のせいかも、ただ同じ方向なのかも、そう思っていたけど、わたしが足を止めると後ろの足音も止まる。振り返ると足音の主であろう人物は壁に寄りかかってケータイを操作したり、キョロキョロし始める。
すごく怪しい。
走ろうにも残念なことにヒールを履いてしまっている。一か八かで走ってみるか?わたしの気のせいならそれでいい。気のせいでした、で終わる。
___まさかね
誰かに電話する?
でもその間に向こうが走ってきたら?わたしが1テンポ気づくのに遅れるだけでどれだけ迫ってくるかわからない。逃げ切れるかわからない。
そう思案しているとポケットの中で握りしめていたケータイが震えた。
一瞬悩んだけど、少し後ろを振り返って相手の反応を確認して出た。
「っ、もし、もし」
逆に立ち止まって、ついてきてるであろう人の方を向いているのはどうだろう。
『もしもし〜?今もう自動車学校??』
章ちゃんの暢気な声が聞こえた。
「ううん…駅に向かってる、途中…の近道んとこ」
わたしの歯切れの悪さに気付いたのか、『どうした?』と少し章ちゃんの声が低くなった。止まった時から足音の人物も足を止め、こっちの様子を伺ってるみたい。暗くてその表情までは読めない。
「つけられてる、みたい」
『!!、大丈夫??今どうしてるん!』
「っぽい人の方見て止まってる。なんか動いたらすぐ動けるように」
『でもずっとそのままでおる訳にはいかへんやんな…近くなんかないんか??それかバーって走って駅に…』
「ヒールやねん」
『あぁ…』と章ちゃんの落胆の声が聞こえた。わたしもそんな気持ちだよ、章ちゃん。
『あ!亮がおるわ!』
「え?」
『亮の現場、確かその駅周辺や!まだおると思うねんけど…あっ!村上くん!亮に電話して!すぐ!!』
章ちゃんが近くにいたらしいヒナちゃんに声をかけると後ろの方で「おー?」と反応するヒナちゃんの声が聞こえた。
……あとどれぐらいもつかな…いつもより早口で喋ったけど…。