第1章 貴方が嫌い
「渚ー!いっくよー!」
「ちょっ!茅野!わぁっ!?」
「もー!しっかり受け取ってよねー!」
「理不尽だよ!?」
お昼休みは賑やかだ
本校舎時代ではなかったこのクラス全体が仲の良いこの光景……本校舎もベクトル違いでは皆仲が良かったのかもしれないけれど……
頬杖をついた私は息を漏らして瞳を閉じた
脳裏を過ったのは虚しい去年の映像なわけで……私の嫌いなやつが怖かった時の映像
怖いなんてレベルじゃなくて……本当に、今までのどの悪口よりも心が痛くなる…………忘れようもない表情だった
思い出す度に罪悪感とは違う何かが私に取り巻くんだ
それでも、私はたぶんこの関係を彼とはやめれない……なんて、本当に……こんな嫌悪を抱かせてくださる彼が
「嫌い」
いつの間にか寝てしまっていたようで、自分のその声で目が覚める
クラスには人が居なくて、あぁ、またやってしまったと諦めて目を閉じる決断に移行した
……わかってる。こんなの言ってたって何も変わらないって
人をどうこうできるのは言葉ではなく行動、それのみ
そして、嫌いという言葉は動詞ではなくて形容動詞で、少なくとも、私が彼に対して使う”嫌い”はこちらの意味だ
この言葉を彼以外に使うことはない。否、使いたくない。
彼だから……使えるんだ
「…………こんな、敵を増やすばかりの言葉は使うべきじゃないんだ……」
「そうだね、俺もその通りだと思うよ」
「!」
耳元で聞こえたその声に、私は閉じていた目を見開いた
反射神経が脳に届けるのを阻止して、本能のように腕を振った
その的は外れることなく声の主に届いたのに、手応えのなさに愕然とする
「おお、こっえ…………寝起きだから油断したのに」
なんで……今日は来ないと思ってたのに
真っ先に私に姿を見せたの
「赤羽 業……」